2006年07月12日

暗香疎影

●41.暗香疎影(あんこうそえい)

【意味】趣きある春の夕暮れの情景をいう。「暗香」は、どこからともなく漂ってくる花などのよい香りのことで主に梅の香りを指す。「疎影」は、光などに照らされて、まばらに映る影のこと。梅の別名でもある。よって、この語は主に梅についていうことが多い。

【出典】林逋(りんぽ:北宋の詩人)山園小梅(さんえんのしょうばい)より。
 この漢詩はとても有名で、梅を歌ったものとしては、最高傑作との評価があります。情景がよく目に浮かぶ詩で、「横斜」に対して「浮動」、「水清浅」に対して「月黄昏」など好対照の表現もうまく用いられています。なお、「暗香浮動」という四字熟語もほぼ同じ意味ですが、この漢詩から生まれました。

衆芳揺落独暄妍
 
占尽風情向小園       

疎影横斜水清浅       

暗香浮動月黄昏      

霜禽欲下先偸眼       

粉蝶如知合断魂       

幸有微吟可相狎       

不須檀板共金尊       

衆芳(しゅうほう) 揺落(ようらく)して 独り暄妍(けんけん)たり
風情を占尽して 小園に向かふ
疎影は横斜 水は清浅
暗香 浮動し 月 黄昏
霜禽(そうきん) 下りんと欲して 先ず眼を偸み
粉蝶 如し知らば 合(まさ)に魂を断つべし
幸ひに微吟の相狎(したし)むべき有り
須(もち)ひず 檀板(だんぱん)と金尊(きんそん)とを

多くの花が散りしぼんだ後、ただひとりあたたかく咲き誇っていて、
小さな庭の風情を独占している
まばらな梅の木の影は斜めにのびて 清く浅い水面に映り
ほのかな香りは漂い 月のおぼろげな光の中に映える
霜にあった白い鳥は、舞い降りようとして、(梅の白さに)まず周りをこっそり眼をむける
白い蝶は、もし白い梅花が咲いているのを知ったなら、きっと魂を奪われて驚くことだろう
幸い、私の低い吟声が梅とよく似合っている
拍子木も酒樽も今さら要らないのだ

※「衆芳」は、多くのかぐわしい花のこと。「暄妍」は、あたたかで景色が美しいこと(「暄」は、日ざしが行き届いて、ほかほかとしているさま。「妍」は、形よく整うこと)。霜禽(そうきん)は、霜にあった冬の鳥のこと。

※松尾芭蕉の句に「梅白し昨日や鶴を盗まれし」というものがあります(野ざらし紀行)。これは芭蕉が京都・鳴滝の山荘に知人の三井秋風を訪ねた時の句です。庭園の梅林の白梅は見事で、きっと鶴もいるだろうと思ったが、鶴は昨日盗まれたのか姿が見えないという意味で、生涯、梅を妻とし鶴を子として暮らした林逋になぞらえた句とされます。
 
 「暗香疎影」といえば、田能村竹田の「暗香疎影図」があります。昭和44年に国の重要文化財に指定され、現在大分市美術館に所収されています。谷間のうす暗い影の中で咲き誇る梅の様子を描いたもので、竹田の代表作のひとつとされます。

 また、南宋の院体画末期の画家だった馬麟(ばりん)もこの林逋の詩の絵画化を試みて、「暗香疎影図」を残しています。これは、台北故宮博物院に残されているといいます。

 
 四字熟語というと、固いものが多いのですが、このように風景から生まれた表現も叙情的でいいと思います。書き下し文も意味が取れていいですが、やっぱり漢詩は中国語で読めれば、もっと情感で出るんじゃないかなぁ、と思ったりします。とても難しいですが…(汗)。

posted by landmark at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 四字熟語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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